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コラム

長江希さん

公式ボランティアサポーター「スズサポ」メンバー

2023年9月6日更新

奥能登国際芸術祭では「スズサポ」と呼ばれる公式ボランティアサポーターさんの力を借りて、作品制作をしたり、作品受付を運営したりしています。

完成したアートを鑑賞するだけでなく、制作の過程や、珠洲の土地や人と触れ合うことで生まれる出会いを芸術祭を通じて味わってほしい。そんな思いから「スズサポ」として活動してくれるメンバーを募っています。

今回は、第1回の芸術祭で「スズサポ」の活動に何度も参加してくださったコアな芸術祭のファン、長江希さんにサポーター活動の魅力や面白さについて伺いました。1回目の芸術祭が開催された当時は、金沢にお住まいでしたが、会期中は毎週のように珠洲へ通うほど熱心にサポーター活動に参加してくださいました。活動に参加したきっかけは何だったのでしょうか。 

田舎に人を呼ぶ地域芸術祭の面白さ

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2017年サポーター活動の様子。仲間との楽しい雰囲気が伝わります。

「社会人になりたての頃、雑誌に載っていた越後妻有の大地の芸術祭の記事を見て友達と遊びに行ったことがきっかけで地域芸術祭というものを知りました。アートについて全然詳しくなかったけど、分かる気がするものもあれば、なんかよく分からないけど面白いなって思うものもありました。開催地となった越後妻有は山と民家しかない田舎なのに、こんな若いお客さんたちがいっぱい来るっていうのが、すごく不思議で興味を持ちました。こんな田舎に人を呼べる芸術祭ってすごいなぁって。」

それから長江さんは瀬戸内国際芸術祭も見に行き、どんどん地域芸術祭に夢中になっていきました。しかしまだその時は、あくまでお客さんとしての参加。ボランティアサポーターの存在を知ったのは、大地の芸術祭で受付スタッフと話したときのことでした。 

「2度目に大地の芸術祭に行った時、友達がトイレに行っている間、作品の前で待っていたんです。そしたら、そこで受付をしてたサポーターの方が『どちらから来たんですか?』って話しかけてくれて。『金沢から来たんです』と話してる中で、受付してる方に『お仕事で受付をやってるんですか?』と聞いたら『私たちボランティアなんですよ。東京から来ました』と教えてくれて。てっきり専門の知識を持った人がお金もらって働いていると思っていたら、実はそうじゃないってことを知って、じゃあ私でもできるんだ!こんな面白いイベントに自分も参加できるんだ!って。その時初めてボランティアとして参加してみたいなと思いました。」

人とのふれあいを楽しむ、サポーター活動の魅力。

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作品受付をする長江希さん。

しかし当時金沢で暮らしていた長江さんにとって、越後妻有も瀬戸内もサポーターとして参加するには少し遠すぎる場所でした。いつか石川県で芸術祭があったらいいのに。そう思っていた頃、珠洲で芸術祭が開催されるという記事を新聞で見つけました。それも大地の芸術祭や、瀬戸内国際芸術祭を手がける北川フラム氏が総合ディレクターを務める芸術祭。長江さんの心は躍りました。

「同じような芸術祭を石川でもやるんだと思って、本当に嬉しくて。今回は絶対にサポーターとして参加しようって決めました。その頃、珠洲には観光客として1、2回行ったことがある程度で、繋がりも縁もほとんどない場所でした。知り合いなんて一人もいなかったので、最初は少しドキドキしながら車を運転して珠洲へ行っていました。」 

それから、当時開催されたサポーター体験バスツアーのイベントや、清掃の活動に参加し、サポーターの楽しさを知っていきました。特に印象に残っているのは作家の村尾かずこさんが手がけた「サザエハウス」という作品の制作補助。海辺の小屋に、珠洲でたくさん獲れるサザエをたくさん貼りつけ、多くの人が支えあって生きる集落を表現した作品です。 

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2017年に展示された村尾かずこ氏の作品「サザエハウス」

「サザエハウスの制作活動では、小屋にサザエをたくさん貼り付ける作業をしました。1日活動して、日置ハウスに帰って、その時集まったはじめましての人と飲み会をするっていうのがなんだか面白くて、気づいたら活動にめちゃくちゃハマっていました。会期が始まったら月曜日から金曜日は金沢で仕事をして、土曜の朝5時に起きて、車で珠洲まで移動して、ラポルトすずでの朝礼に出るっていう生活をしていました。開催期間中はほぼ毎週珠洲に通っていましたね。」

長江さんがここまで「スズサポ」活動にハマった理由は、活動の楽しさだけでなく、「日置ハウス」での出会いも大きかったそうです。「スズサポ」活動に参加すると、日置地区にある宿舎を格安で利用することができます。お風呂や、洗濯機・乾燥機も完備されている日置ハウス。共有のキッチンでは自炊が可能で、その日の活動を終えた「スズサポ」メンバーが自然と集います。

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日置ハウスでの食事風景。

「日置ハウスに泊まったら私みたいな物好きな芸術祭ファンがいるんですよね。わざわざ来てボランティアするような人ってアートとか芸術祭好きも多くて、夜はなんだか自然と酒盛りになるんです。その日の活動での出来事を話したり、どうでもいい話もたくさんしたりして、かなり盛り上がりましたね。私のほかにも毎週活動に参加する60代の男性のコアなサポーターの方がいました。世代も性別も違うけど、会うと『元気〜?』みたいな感じで。会期前も会期後も、日置ハウスでの出会いが面白かったです。」

やってみないと味わえないサポーター活動の魅力

もうすぐ会期を迎える奥能登国際芸術祭。会期が始まるとサポーターの方には作品の受付をお願いしています。受付活動にはどんな面白さがあるのでしょうか。

「楽しいかどうかは、正直その人次第だと思います。例えば受付の活動は、こんにちはって挨拶して、スタンプを押して、どうぞって案内するだけ。ただの”作業”で終ってしまえば、別に何も交流は生まれません。だから、『どちらから来られたんですか?』とできるだけ自分から話しかけるようにしていました。私自身が、大地の芸術祭で受付の人に話しかけてもらえたから芸術祭の楽しさを知ることができたっていうのもあって、自分も同じようにできたらなあって意識していました。大学生くらいの男の子に話しかけたら、サポーター活動に興味を持ってくれて、『俺もやりたいです!』って実際に参加してくれたこともありました。」 

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珠洲に通うようになって、日置ハウスで出会った人を中心に、芸術祭を共通点とした友達が増えた長江さん。人との触れ合いや、サポーターにならないと味わえない特別感が「スズサポ」の魅力だと長江さんは語ります。

「お客さんとして作品を見るのも充分楽しいけど、サポーターとして参加すれば芸術祭の違う面を見ることができます。お客さんや同じサポーターの人、運営事務局の人や地元の人など色々な方とも交流ができる。あとは、お客さんがいない時には作品を独り占めできるし、裏側だって見れるし、すごく贅沢ですよね。アートが好きだから、そういったところもサポーター活動の醍醐味かなと思います。参加してみないとなかなか伝わらないけれど、この楽しさをたくさんの人に知ってもらいたいです。」 

長江希さんはサポーター活動で珠洲に何度も通う中で出会った男性と結婚し、3年前から珠洲へ移住し暮らしています。元々は繋がりの薄かった珠洲で働き子供を育てる長江さん。「スズサポ」の活動が繋いだ縁にご自身も驚かれているそうです。思い切って飛び込んだ「スズサポ」の活動。珠洲で出会う人、作品、豊かな自然の風景は、参加した人に思わぬ縁を運んでくれるかもしれません。 サポーターとして参加することで、作品や珠洲という場所が自分ごとになり、より一層芸術際を楽しむことができます。ぜひ、丸ごと芸術祭を楽しみ尽くしてください。 みなさんのご参加を心よりお待ちしています。 

▼スズサポへの登録はサポートスズHPよりご確認ください。
 https://support-suzu.jp/

文:戸村華恵